目を開けると僕は濃紺の羽をした鳥であり、金色の鳥篭の中に居た。

 鳥篭には針金のような細い手足がついていて、平らな地面を歩き回っている。何故それが分かるかというと、他にも同じような鳥篭の姿がちらほら周りに見えたからだ。それに、篭が歩くと僕の掴まっている止まり木がゆらゆら揺れる。
 まあ篭の歩き方は比較的ゆっくりで、不快なほどの揺れでもなかったので、とりあえず僕はそのまま篭を勝手に歩かせていた。

 することも無いので他の鳥篭を観察する。
 手足の生えた鳥篭という点ではどれも一致しているけれど、その姿は様々だ。金色のもの、銀色のもの、真鍮製、木製、大きくて豪華なものから小さく可愛らしいものまで。
 中の鳥も、黒いのや茶色いのや鶯色のやオレンジのや、うるさく鳴くのや無言で羽を作ろうのや、とにかく色々。

 ふと、鳥篭の一つが転んだ。その衝撃で、ガシャンと扉が開く。中に居たのはエメラルド色の綺麗な小鳥で、初めは驚いたようにキョロついていたけれど、やがておずおずと開いた扉に近寄り羽を広げる。
 そして小鳥は、飛び立った。

 薄曇りの空にエメラルド色の影は一瞬残像を留めただけで、すぐに消えてしまう。
 気づけば、僕のを含めて、鳥篭たちが一連の流れをじっと見守っていた。僕の隣にもひとつ、落ち着いた銀色の鳥篭がいる。誰もが無言だった。
 倒れた鳥篭は、もう全く動かなかった。

 それ以上変化は訪れないと判断したのか、やがて鳥篭たちはバラバラに歩き出す。僕の篭も、またさっきと同じように歩き出した。
 隣に居た銀色の鳥篭も、たまたま同じ方向に行くようだ。中の鳥は僕より一回り大きくて、頭のてっぺんにちょっとした飾り羽がある。鳥篭同士が揺れて、軽くぶつかる。
 僕は一声さえずってみた。飾り羽の鳥が短くさえずり返した。
 僕らの鳥篭はそうしてしばらく一緒に歩いていった。



 



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